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ラガーワイン誕生物語

 2014年2月の大雪災害で山梨県の農家は大きな被害を受けた。なかでも栽培面積と収穫量が全国1位の葡萄、桃、李(すもも)の被害は大きく、主要産地の一つである、甲府盆地東部の峡東と呼ばれる地域の笛吹市、山梨市、甲州市でも果樹が折れたりビニールハウスが雪の重みで倒壊するなど大打撃を受けた。

 そこで立ち上がったボランティアの中にワンフォアオール・オールフォアワン(一人はみんなのために、みんなは一人のために)のスピリッツを持つラガーマンがいた。彼らは除雪やパイプが折れ曲がったビニールハウスの片づけなどで献身的に農家をサポートしたが、そこで浮き彫りになったことがあった。遊休農地が多く農家の高齢化が進む中で後継者が激減しているという現実。折れた果樹や ビニールハウスの片づけをしたとしても雪害を機会に離農を考える人も少なくなく、一時的なボランティア活動では根本的な問題は解決しないことは明らかだった。

 そこで地元・日川高校のラグ ビー部のOBを中心としたラグビーファミリー(ラガーマン)が立ち上がった。「地元の葡萄を使ってワインを作ろう」。勝沼町がある峡東地域は葡萄やワインの全国的に有名な産地であるが、彼らが大切にしたことは新たな産業を創造し雇用に繋げることと葡萄不足の解消。実は山梨県は日本一の葡萄生産地ながらワイン用の葡萄は常に不足気味。後継者不足による遊休 農地が増えていることも理由の一つだが、世界ではほとんどの葡萄がワイン用に栽培されているが、日本ではフルーツとしての葡萄の人気が高く、また取引単価も高いために葡萄生産量のうちワイン用は10%程度だといわれている。そこで考えたのが「間引き」をする若い葡萄の実を生かすということ。

若い葡萄の適度な酸味がフルーティなワインを作る

 6月から7月にかけて、ぶどうの房が大きくなる過程で密集した粒がぶつかり合い潰れてしまうことがある。そのままにしておくと、つぶれた箇所から病気が発生することもある為、「摘粒」と呼ぶ粒を間引いて房を成形する作業を行うが、この間引いた粒を調味料やワインに使用することを思いついた。
 この完熟する前に早摘みされる若い葡萄の粒を使って2015年に試験的に作ったワインは、完熟した葡萄を使うワインよりもフルーティーで飲みやすく、ワイン通にも評判がよかった。また、アルコール度数も平均的な赤ワインが12〜15%程度なのに対して10〜11%とやや低めで、強いアルコールが苦手な人でも食事と一緒に楽しめるワインに仕上がった。

 完熟した葡萄と若い葡萄をブレンドするのではなく、春から夏にかけて酸味が適度にある若い葡萄の実だけを使うワインは予想以上の味と風味という幸をもたらしてくれる。
 この取り組みには農業体験ツアーも含まれている。葡萄生産の準備から収穫・ワイン生産までの様々な農作業を「葡萄農家、ワイン生産体験ツーリズム」として都会の人々が参加する機会を「ラガーワイン株式会社」が提供する。葡萄栽培・収穫、ワイン生産などを通じて農業や山梨県峡東地域ならではの葡萄畑が広がる雄大な自然・景色に親しむという都会では味わえない非日常が魅力的なアクティビティになる。また、山梨市がある峡東地域は山梨ラグビーの本場だけにこの取り組みの原点となったラガーマンとの交流なども企画される。